フリップフロップ応答を生成する
神経回路のモデルとシミュレーション
LAL-VPC Network Model

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下降性介在神経にLAL-VPC units内で見られるフリップフロップ応答はフェロモン源探索行動におけるジグザグターン・回転を制御していると考えられているが、そもそもこのフリップフロップ応答はどのような神経機構により生成されるかは次のように考えられている。のだろうか?
LAL-VPC unitsの神経回路をより正確に理解するためには、LAL-VPC unitsを構成する個々の神経細胞間の接続関係やその接続の強度(シナプス荷重)を明らかにする必要がある。しかし、現時点では計測技術の制限により、実験的にそれを解明することは困難である。昆虫では多くの神経細胞が同定可能である。よって別々の脳で調査された神経細胞でも、それをデータベースに登録し、包括的に神経回路を見ることが可能である。ただし、神経細胞間のシナプス荷重がどの程度なのかを明らかにするのは困難である。

我々はカイコガ神経細胞のデータベースを作成している。このデータベースには1000個以上の神経細胞の詳細な3次元構造とそのフェロモン刺激時の生理応答が登録されている。このデータベースの登録されている、LAL-VPC unitsに存在するニューロンの三次元形態と応答を綿密に分析することにより、以下のフリップフロップ応答を生成する神経回路のモデルを提唱している。この神経回路のモデルによりフリップフロップ応答を生成する神経機構を推測しようと試みている。
モデルはLAL-VPC unit内の五領域のフェロモン刺激時の応答を抽象化して記述し、そのそれぞれとLAL-VPC units内の神経細胞間の結合をデータベースの情報をもとに結合させ、その間のシナプス荷重さまざまに変化させながらフリップフロップ応答を生成する結合およびシナプス荷重を推測する。
さらには、上記で抽象化したLAL-VPC unit内の五領域内の各神経細胞の結合を詳細にモデル化することを目的として、標準化、平均化された脳(標準脳)内の座標系をもとに、データベース内に登録されている神経細胞をマッピングし、各ニューロン間の結合可能性を評価し、このモデルにおいてもシナプス荷重を推測していく。この際、これらの神経回路モデルの振る舞いはすでに実験的に得られているデータをよく再現できるかで、評価している。最終的には、LAL-VPC unitsでフリップフロップを生成するかで評価していくことになろう(嶋ら, 2009)(図 電気学会誌の図5)。
このモデルの振る舞いは、コンピュータを用いて行うことは当然のことであるが、神経細胞間の結合可能性は膨大な量になるため、計算量が膨大になる。そこで、このようなシミュレーションをスーパーコンピュータでにより実行する計画が進められている。
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参考文献

神崎亮平 (2009) ロボットで探る昆虫の脳と匂いの世界−ファーブル昆虫記の謎に挑む− フレグランスジャーナル社 2009年

Kanzaki R, Ikeda A, Shibuya T. (1994) Morphology and physiology of pheromone-triggered flipflopping descending interneurons of the male silkworm moth, Bombyx mori. J Comp Physiol A. 175:1-14.

Mishima T, Kanzaki R. (1999) Physiological and morphological characterization of olfactory descending interneurons of the male silkworm moth, Bombyx mori. J Comp Physiol A. 184:143-160.

Iwano M, Hill ES, Mori A, Mishima T, Mishima T, Ito K, Kanzaki R. (2010) Neurons associated with the flip-flop activity in the lateral accessory lobe and ventral protocerebrum of the silkworm moth brain. J Comp Neurol. 518(3):366-88.

嶋聰・加沢知毅・神崎亮平:昆虫の嗅覚系全脳シミュレーション (2009) 電気学会誌 129(12):808-811.
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