昆虫のからだは頭部,胸部,腹部の3つに分かれる.頭部,胸部,腹部はそれぞれ頭部神経節と食道下神経節,胸部神経節,腹部神経節に支配される分散構造をとる(A).頭部神経節は特に脳といわれる(図1).このような分散的な神経節構造は昆虫の神経系の大きな特徴である.各神経節は左右一対の縦連合といわれる神経束により結合され,はしご状の構造を示す.各神経節は,局所的な感覚情報処理や運動制御,記憶・学習の場として働き,脳がこれらの統合中枢として機能する.脳は主に,視覚・嗅覚などの頭部からの感覚情報の処理を行うとともに,胸部以下の神経節からの信号を受け,これらを処理し,新たな情報を行動指令として胸部以下の神経節に伝達する.
情報の一部は脳内に記憶され行動指令を修飾する.脳以外の神経節は,体性感覚の処理に加え,胸部神経節では飛翔,歩行などの基本的な運動パターンをつくる.したがって,頭部と腹部を切り離し,胸部だけの状態でも,羽ばたきや歩行を起こすことができる. ただし,直進の歩行や飛行のパターンに限られる.歩行や飛行の開始,終了,方向転換などの行動指令は脳から胸部神経節に伝達される.また,胸部神経節にも学習能力がある.断頭したゴキブリを吊り下げ,脚がある高さまで下がると電気ショックが与えられるようにすると,30から40分でこのゴキブリは脚を次第に下げなくなる.このように昆虫では学習が胸部神経節など脳以外でも起こるのである.