戻る 昆虫の歩行と歩行制御ロボット
歩行する昆虫は起伏の激しい地形にも対処することができる.また,その肢をセンシングや物体操作のために使用することもできる.しかもその制御系は演算要素としては精度が悪い素子にしか見えないニューロンで構成されている.しかしこの制御系はノイズに対する頑強性と自己組織化の能力を示す.さらにこの制御系は分散処理構造をとっており,その動作は感覚フィードバック(環境との相互作用のループ)だけでなく,内部フィードバックにも大きく依存している.

機械による陸上の移動には一般に車輪かキャタピラが利用されている.しかしこれらはある程度平らな路面でしか利用できない.一方,昆虫は人工的な整備のない路面でも移動することができる.すなわち彼らは石の多い場所も砂地も歩き回り,枝を登り,さまざまな大きさや形の障害物も乗り越えることができる.さらに脚を泳ぐためや,採餌や体の掃除,物体の運搬などの複雑な操作にも使うことができる.昆虫や甲殻類では,これらの脚の運動は比較的小さい脳により制御されている.この脳を構成するニューロンの情報処理速度やその正確さは現代のコンピュータと比べると何桁もおとる.しかし脚を制御するシステムは高い信頼性とロバスト性をもつことが要求されるし,また何本かの脚がなくなったとしても十分に機能する必要がある.しかも少ない消費エネルギーで機能する必要がある.よって昆虫の基本的な制御戦略が人工的な歩行システムを構成できるとすれば,この戦略は生物学者のみならず工学者にとっても非常に魅力あるものになる.

直観的には,複雑な行動の制御には複雑な脳が必要であると思いがちであるが,身体の物理的性質の利用と環境との相互作用によって得られる情報により,必要な制御構造を劇的に簡素化できることが示されてきた.このような考え方は昆虫の歩行の研究によっても支持されてきた.ナナフシの歩行研究の成果はWalknetと呼ばれる人工ニューラルネットモデル(ANN)にまとめられてきた.このANNモデルは生物システムに概念的に近いものであるだけでなく,オンラインやオフラインでのさまざまな学習が可能で,入力ノイズに対する頑健性もあるものである.

歩行の制御には二つの基本的問題がある.一つは個々の脚運動の制御法に関する問題であり,もう一つは脚間の協調に関する問題である.第一の問題に関しては,周期的なステッピング運動を発生させる制御システムがある.この制御システムの振舞いは弛張発振器の動作に似たものであり,状態の遷移(遊脚相と接地相の間の遷移)が脚の位置に基づくある閾値によって生じる.

(書きかけ)
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