触角葉は主に,嗅受容細胞,触角葉内でのみ分枝を持つ局所介在神経,触角葉と上位中枢を結ぶ投射神経から構成される.前大脳に樹状突起をもつ比較的少数の,遠心性神経も存在する.
嗅受容細胞
嗅受容細胞は,触角あるいは
小顎鬚(Maxillary palp)上に細胞体を持ち,嗅受容タンパク質を発現し,触角葉へと軸索投射する神経細胞である.同一の嗅受容タンパク質を発現する嗅受容細胞は同一の糸球体へ投射する[Vosshall et al., 2000].通常,多数の嗅受容細胞に対し,少数の投射神経が接続する.糸球体の表層部に,局所的な軸索を投射することが多い.
投射神経
投射神経は,樹状突起を触角葉内に持ち,
前大脳に軸索投射を行う神経細胞である.単一の糸球体に分枝するタイプ(Uniglomerular)と,複数の糸球体に分枝するタイプ(Multiglomerular)がある.前大脳への走行経路は,
触角脳経路(Antenno-cerebral tract)としては,主要な三経路が知られている[Galizia & Rössler, 2010].ガ類では,詳細な分析がなされており[Homberg
et al., 1988],カイコガの大糸球体では,糸球体位置と触角脳経路,投射領域の対応関係が明らかにされている[Kanzaki et al.,
2003].多くの昆虫では単一糸球体タイプが主要な投射神経であり,糸球体内の全体に樹状突起様の分枝をもつ.バッタなどでは,複数糸球体タイプが主要である.
局所介在神経
局所介在神経は,触角葉の内部にのみ神経突起をもち,触角葉の情報処理を担う,主要な細胞であると考えられている.カイコガでは,初めて局所介在神経の網羅的な形態分類がなされ,全ての糸球体に一様な分枝を持つ
GABA免疫陽性細胞が最も多いことが分かったが,分枝する糸球体数・形状・免疫反応性にも様々な多様性があることが明らかになった[Seki & Kanzaki,
2008].ミツバチなど,社会性を獲得した昆虫において,より複雑なタイプの細胞が多い傾向がある.
遠心性神経
遠心性神経は,前大脳領域に樹状突起をもち,触角葉内に軸索投射を行う神経細胞である.様々なタイプの遠心性神経があるが,再現性よく遠心性神経から記録を行うことが難しく,他の神経群に比べ,あまり特性が分かっていない.
ミツバチでは,不対中央ニューロンと呼ばれる
オクトパミン作動性の遠心性神経が,嗅覚と味覚の連合学習に必要であることが分かっている[Hammer , 1997].
カイコガにおいては,
セロトニン免疫陽性の神経細胞の性質がよく分析されている[Hill et al., 2002].この細胞は,左右で一対から数対存在することが知られている,ほとんどの昆虫で観察され,種間である程度保存された神経細胞であると考えられる[Dacks et al., 2006].
参考文献
Dacks AM, Christensen TA, Hildebrand JG (2006) Phylogeny of a serotonin-immunoreactive neuron in the primary olfactory center of the insect brain. J Comp Neurol 498:727-746.
Galizia CG, Rössler W (2010) Parallel olfactory systems in insects: anatomy and function. Annu Rev Entomol 55:399-420.
Hammer M (1997) The neural basis of associative reward learning in honeybees. Trends Neurosci 20:245-252.
Hill ES, Iwano M, Gatellier L and Kanzaki R (2002) Morphology and physiology of the serotone-immunoreactive putative antennal lobe feedback neuron in the male silkmoth Bombyx mori. Chemical Senses 27:475-483.
Homberg U, Montague RA, Hildebrand JG (1988) antenna-cerebral pathways in the brain of the sphinx moth Manduca sexta. Cell Tissue Res 254:255-281.
Seki Y, Kanzaki R (2008) Comprehensive morphological identification and GABA immunocytochemistry of antennal lobe local interneurons in Bombyx mori. J Comp Neurol 506: 93-107.
Vosshall LB, Wong AM, Axel R (2000) An olfactory sensory map in the fly brain. Cell 102:147159.