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触角葉 Antennal Lobe
English
触角葉は,中大脳の密集型ニューロパイル構造であり,触角の神経細胞からの軸索が終末する領域である.触角葉は,領域内でのみ分枝を持つ局所介在神経,触角葉と上位中枢を結ぶ投射神経および嗅受容細胞の軸索からなり,相互に複雑なシナプスを形成する.シナプスが形成される領域は糸球体と呼ばれ,それらが多数集まりブドウの房状の構造を作っている[Anton & Homberg, 1999].また上位中枢から触角葉に下降(フィードバック)する少数の遠心性神経が存在する.
 各神経の数は,昆虫の種により異なるものの嗅覚受容細胞が1万から10万,局所介在神経が300から750,投射神経が200から1000程度である.各神経の数から考えると,嗅覚受容細胞の情報は,触角葉で約1/100に収斂することになる[Schnerider, 1964].触角葉のこのような構造は,脊椎動物の第一次嗅覚中枢である嗅球と類似している[Hildebrand & Shepherd, 1997].昆虫の糸球体の数はマウス(約1800)[Royet et al., 1988]などと比較して桁違いに少なく(キイロショウジョウバエ,43; ミツバチ,166; カイコガ,60),個体間で同定することができる[Anton & Homberg, 1999].また,ショウジョウバエでは同じ嗅覚受容体が発現した嗅覚受容細胞は,特定の1個または2個の糸球体に投射している.このような特徴をもつ昆虫の触角葉は,嗅覚情報処理システムを研究するうえでのよいモデルとなっている.

また,ガ類やゴキブリ類の触角葉では顕著な性的二形がみられ,雄にはフェロモン情報処理に特化した大糸球体または大糸球体複合体とよばれる,ひときわ大型の糸球体がある.これに対し,一般臭の情報を処理する比較的小型の糸球体は常糸球体とよばれる.

触角葉で処理された情報は投射神経により二次中枢である前大脳のキノコ体と前大脳側部へと伝達される.同一の糸球体に由来する投射神経は,前大脳側部の特定の領域に投射し,前大脳側部においても,匂いの機能マップが存在することが分かっている.
参考文献

Anton S, Homberg U (1999) Antennal lobe structure. In: Hansson BS (ed) Insect olfaction. Springer, Berlin, pp 97–124.

Hildebrand JG, Shepherd GM (1997) Mechanisms of olfactory discrimination: converging evidence for common principles across phyla. Annu Rev Neurosci 20:595-631.

Royet JP, Souchier C, Jourdan F, Ploye H (1988) Morphometric study of the glomerular population in the mouse olfactory bulb: numerical density and size distribution along the rostrocaudal axis. J Comp Neurol 270:559–568.

Schneider D (1964) Insect antennae. Annu Rev Entomol 9:103-122.

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