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一般に,触角葉は多数の糸球体構造が集まったぶどうの房状の構造をしている。それぞれの糸球体には原則的にひとつの種類の嗅覚受容細胞が投射し,ガ類などでは,グリア細胞に囲まれ,明瞭な境界で区切られている.ガやゴキブリでは大糸球体といわれるフェロモン受容神経が集まる比較的大きな領域(大糸球体)があり,長く嗅覚情報処理研究のモデルシステムとなってきた.

触角葉を構成する神経細胞の細胞体は,通常集合してクラスタを形成する.カイコガでは,主に3つの領域に集合し,それぞれメディアルセルクラスタ(Medial cell cluster, MC),アンテリアセルクラスタ(Anterior cell cluster, AC),ラテラルセルクラスタ(Lateral cell cluster, LC)と呼ばれる. LCはさらに前方のLCIと,後方のLCIIに分類される.クラスタを構成する神経細胞は異なる性質を持ち,投射神経の細胞体は,MC,AC,LCI,局所介在神経の細胞体は,LCI,LCIIの細胞体クラスタに属する.

大糸球体では,フェロモンの各成分に対応する領域が存在する.カイコガの触角葉においては,主として,トロイドキュムラスホースシューの3領域が存在し,トロイドがフェロモン主成分のボンビコールに,キュムラスが副成分のボンビカールの処理を担うことが分かっている[Kanzaki et al., 2003].トロイドとキュムラスは,相互に入り組んでいる.

カイコガの糸球体は,その相対的な位置やサイズ・形状によって特徴づけられ,命名,同定が可能である[Kazawa et al., 2009].基本的には球形のものが多いが,カイコガでは表層部から深部へ向かうにつれ,球からの歪みが大きくなり,これは昆虫全体に見られる傾向のようである.また常糸球体においては,糸球体の分割・小サイズの糸球体の出現などの個体間での多型が存在する.

          

図.触角葉と糸球体構造.共焦点顕微鏡により取得したカイコガ触角葉の光学切片像(左)と,糸球体を個別に再構築した,三次元糸球体マップ(右).D,Dorsal,背側;MC, Medial cell cluster, メディアルセルクラスタ;MGC, Macroglomerular complex,大糸球体;L,Lateral,外側;LC,Lateral cell cluster,ラテラルセルクラスタ;OG,Ordinary glomeruli,常糸球体.Kazawa et al., 2009より改変.


     

図.常糸球体の同定.カイコガの常糸球体の共焦点顕微鏡画像を再構築し,形態学的な手掛かりのみを用い,各糸球体に固有の名前を付けた.大糸球体は透明にして表示した.DDorsal,背側;LLateral,外側.Namiki & Kanzaki, 2008より改変.

参考文献

Kanzaki R, Soo K, Seki Y and Wada S (2003) Projections to higher olfactory centers from subdivisions of the antennal lobe macroglomerular complex of the male silkmoth. Chem Senses 28: 113-130.

Kazawa T, Namiki S, Fukushima R, Terada M, Soo K and Kanzaki R (2009) Constancy and variability of glomerular organization in the antennal lobe of the silkmoth. Cell Tissue Res 336:119-136.

Seki Y, Aonuma H and Kanzaki R (2005) Pheromone processing center in the protocerebrum of Bombyx mori revealed by NO-induced anti-cGMP immunocytochemistry. J Comp Neurol 481: 340-351.  

触角葉の構造 Structure of the Antennal Lobe
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