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ナミアゲハの感覚受容器


木下充代 (総合研究大学院大学)

複眼

アゲハの複眼ひとつは、約12000〜16000個の個眼からなる。一個眼には、角膜と円錐小体の2つのレンズ系と、その下に9つの視細胞*が含まれる(図1a)。各個眼は、色素細胞に取り囲まれることよって、隣の個眼から独立して一光受容ユニットとして機能する。個眼の中央には光受容部位(感桿)がある。感桿は、角膜に近い遠位は視細胞1−4、より深い近位は視細胞5−8、基底部分は視細胞9番から伸びる微絨毛によってつくられている。各視細胞は、微絨毛の伸びる方向に従って、特定の方向に振動する偏光に感度を持つ。 個眼ひとつひとつは一見どれも同じに見えるが、感桿の周囲にある赤もしくは黄色の遮蔽色素と感桿上部にある紫外線吸収物質の有無によって3タイプに別れる(図1b, c)。事実、複眼を切って内側から光を入れて外から観察すると、各個眼は赤もしくは黄色に見える(図1b)。この赤く見える個眼のうち一部は、紫外線の下で見ると青白い蛍光を出す(図1c)。この方法でアゲハ複眼見ると、赤・赤くて紫外線の下で蛍光を出す・黄色の計3タイプ個眼があること、占有率が異なること、3種類の個眼は、複眼上に不規則に配列していることがよくわかる。 光受容細胞*の波長に対する感度は、主に感桿にある視物質の吸収波長の特性によって決まっている。アゲハの複眼では、紫外 (UV)・青 (B)・3種類の波長 (L1-3)の計5種類の視物質が同定されている。実際の光受容細胞の感度は、視物質の吸収波長と遮蔽色素や紫外線吸収物質の働きによって決まる。そのため、アゲハの持つ光受容細胞は大別して、紫外・紫・青・緑・赤の波長域に感度を持つ5種と広い波長域に感度を持つ広帯域受容細胞の6種類になっている(図2)。 表1は各個眼タイプごとに、そこに含まれる、光受容細胞の種類、偏光感度、視物質の発現等をまとめたものである。3タイプの個眼は、それぞれ異なる組み合わせになっている。各個眼は、複眼に不規則に異なる比率で分布する。この複雑な網膜の構成は、色覚・偏光視・物体認知等のさまざまな視覚機能と密接に関係していると考えられている。 * 文中において、細胞の個眼内での位置に言及するときは視細胞、同じ視細胞の光に対する感度に言及するときは光受容細胞と用語を使い分けた。 参考文献(以上の内容は、以下の総説に詳しく解説されている。)


図1アゲハ複眼を構成する3タイプの個眼 a. 個眼構造と3タイプの個眼.図左が縦切り,右がそれぞれ遠位,近位,基底部の横切りである.花びらのように見えるのが細胞体で,視細胞の番号を中に表示した.個眼タイプによって感桿周囲にある遮蔽の色素の色と紫外線吸収物質の有無が異なる. b. 内側より光を入れて外から観察した複眼.赤い個眼と黄色の個眼がある.c. 紫外線の下で観察した複眼.赤い個眼の一部が蛍光を出す(矢頭).


図2アゲハの複眼に含まれる光受容細胞の分光感度.


個眼

タイプ

占有率

(%)

蛍光

色素

視細胞番号<偏光感度**

R1,2

< 0度>

R3,4

< 90度 >

R5−8

< 35, 145度>

光受容細胞(視物質)

I

50

×

紫外/青

(UV/B)

二峰性緑

(L1, 2)

(L3)

II

25

(UV)

単峰性緑

(L1, 2)

広帯域

(L2, 3)

III

25

×

(B)

二峰性緑

(L1, 2)

二峰性緑

(L2)

表1 3タイプの個眼における特徴と光受容細胞の組み合わせ.
**: 偏光感度は、地面に対して垂直の振動面を0度として表示した。



参考文献(以上の内容は、以下の総説に詳しく解説されている。)

Arikawa K (2003) Spectral organization of the eye of butterfly Papilio. Journal of Comparative Physiology A, 189: 791-800.


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